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2004.10.05

貘さん,知っていますよ

今日はfaceさんの『な~んちゃって通信』にトラックバック.なんせ「貘さんを知っていますか?」ときた.そりゃあ諸手を挙げて,知ってる知ってる貘さんっていいっすよねぇ,である.

「獏さん」こと山之口貘は沖縄の詩人.faceさんが紹介されている作品「鮪に鰯」に見られるように,超現実的な幻想と庶民的な日常性,そして軽妙なユーモアと辛らつな社会批評が同居した独特の作風である.それにしてもこの「鮪に鰯」は実に実に良い.こりゃ確かに高田渡に歌わせたら絶品だろうなと思う.だが私にとっての「獏さん」は「喪のある景色」の詩人なのだ.

うしろを振りむくと
親である
親のうしろがその親である
その親のそのまたうしろがまたその親の親であるというように
親の親の親ばっかりが
むかしの奥へとつづいている

「喪のある景色」は,こんな書きだしで始まる1連15行の比較的短い作品である.だが,そのスケールは大きい.「親の親の親」をたどって「むかしの奥」に遡ったかと思うと,今度は「子の子の子の子の子」をたどって,「空の彼方」へ「未来の涯」へ突き進む.その行きつく末,時空のはるか高みから振返ると――
こんな景色の中に
神のバトンが落ちている
血に染まった地球が落ちている

世界の終わり,生命とその歴史の終わりを想起させるような戦慄的な静けさ.しかも終末をもたらしたのは他でもない<人間>だと思わされる.神のバトンを落としたのは,地球を血で塗りこめたのは俺たちだ,と.

余談である.私がこの作品と出会ったのは15年ほど前のこと.まだ結婚したばかりの私は狭い木造アパートに住んでいた.会社帰り,夜,遅くまで開いている近所の古本屋で彌生書房の『山之口貘詩集』を見つけた.手にとって開くと,いきなり「喪のある景色」が眼に飛び込んできた.衝撃的だった.

翌日,私は初めての海外出張でハワイに向かった.もちろん妻を連れて行くわけにはいかなかったが,「貘さん」の詩集はいつもカバンの中にしのばせていた.上司の眼を盗んでは寸暇を惜しんで読みふける.英語の書類の山なんかそっちのけである.

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コメント

はじめまして。
トラックバックどうも有り難うございます。
貘さんがお好きなんですね。
「喪のある景色」は知りませんでした。
勉強不足でした。是非読んでみたいと思います。
それに、なにやら詩人の名前がいっぱい。
嬉しくなってしまいますね。
特に茨木のり子さんとか。
リンクさせていただきました。
またよらせていただきます。

投稿: face | 2004.10.05 20:41

faceさん,ご来亭ならびにコメント有難うございました.

Amazonで調べたら彌生書房版は品切れになっていました.彌生書房のサイトでは紹介されていましたので直接注文すれば入手できるかもしれません.

他にも現代詩文庫(思潮社)や講談社文芸文庫からも『山之口貘詩集』が出版されており,Amazonで簡単に手にはいるようですが,「喪のある景色」が収録されているかどうかは未確認です.

彌生書房版
http://www2.neweb.ne.jp/wd/yayoishobo/Data09/List055.html#0211

投稿: なら | 2004.10.07 12:17

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