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2009.11.16

川越散歩その1・中院の紅葉

山門をくぐると先ず境内を埋め尽くす見事な木々に驚かされる。この時期は殊にモミジが素晴らしい。ボクらもその一人だが紅葉目当ての参詣客も多そうだ。中には三脚に一眼レフを据えてじっとシャッターチャンスを待つ本格的な写真愛好家の姿も見受けられる。

ここは天台宗別格本山中院。もとは喜多院(北院)、南院と共に星野山無量寿寺の一角をなしていたが、中院は寛永の大火で堂宇を消失し、跡地に仙波東照宮が建設されることになったため、現在の敷地に再建されたという。ちなみに南院は明治初期の廃仏毀釈により廃院となり、いまはその跡地に石碑や石仏、歴代住持の墓が残されているだけだ。

本堂に向かって進むとすぐ左手に「不染」と彫られた石碑がある。島崎藤村の書によるもので石碑の奥には藤村が義母に贈った茶室「不染亭」が移築されており今でも茶会に利用されているという。更に進むと足元に大ぶりの葉が散らばっていた。妻はその葉の主の大樹を見上げ「トチの木かな?」と訊く。近ごろ妻はトチの実が可愛いとご執心なのだ。「ホオノキじゃないかな」と答えると近くで落ち葉掃きをしていた男が「オオヤマレンゲだよ」と教えてくれた。寺男であろうか。男は70歳くらいで白髪頭を短めに刈り日焼けした顔が精悍な印象を与える。ぶっきらぼうな口調だが、その底から親切な人柄が伝わってくる。この庭の木々のことなら何でも訊いてくれと言わんばかりだ。

オオヤマレンゲはホオノキと同じモクレン科で、ここにあるのはホオノキとオオヤマレンゲを掛け合わせたウケザキオオヤマレンゲなのだそうだ。花の咲く時期なども教わり礼を言うと男は「落葉の時期は大変だねと皆さん言ってくれるけど掃いていられるうちは張り合いがあっていいんですよ。そのうち掃こうにも落ち葉がなくなってしまう。そうなると寂しいもんでね」と語る。樹齢400年を越えると言われるキンモクセイを始め、ここに根を張り枝を張り葉を茂らせ花を咲かせる木々は、こうした人たちが代々守り伝えてきたものなのだと思うと感慨深い。

焚くほどは風がもてくる落葉かな 良寛

『新・増殖する俳句歳時記』から。吹き寄せられる落ち葉で煮炊きは十分できる。良寛は正にそういった簡素な暮らしを送っていたのだろう。足るを知れというか、乏しくともあるがままを恵みとして有難く頂戴せよと諭された思いがする。改めて「不染」の碑を観る。何ものにも染められることなく自分自身を生きる――藤村の強い信念が伝わってくるようだ。わが身を振り返れば何に染められて不足を嘆き不平を並べてきたのか。いつの日か落ち葉掃きの男のように潔い心持ちで生きていけるようになれたらと思う。

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